【あ】
003 蘆刈(あしかり)


月の下蘆刈り持ちて
上歌『しほたるゝ。我が身の方ハつれなくて。我が身の方ハつれなくて。異浦見れば夕煙。うらめしや終に身を立てかねてこそ賎しけれ。蘆田鶴の。雲居の外に眺め来し。月の下蘆刈り持ちて。露をもはこぶ袖の上なほありがほの。心かななほありがほの心かな』

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 四番目(略二番目)
(季節) 三月 
(稽古順) 三級
(所) 摂津国尼崎市
(物語・曲趣) 摂州日下の里の日下佐衛門は、貧困であるがために妻と別れた。一方、その妻は、都のある家の乳母になって相当な生活が出来るようになったので、夫に会おうと思って、同じ家に仕えている男を伴って日下の里に下る。

しかし、夫は零落して居所不明となっていたので、妻はままならぬ身の上を嘆き悲しむ。連れの男が慰めているところに、蘆売りの男が来て、蘆を勧め舞を舞う。

蘆売りの男は、蘆を求められたので輿のそばへそれを持って行くと、その中に別れた妻がいたので、驚き恥じて隠れる。妻は、夫のそばに行き、和歌を詠んで変わらぬ気持ちを示す。

夫は喜び、これも和歌の徳であると歌物語をしてめでたく舞った後、夫婦連れ立って都に帰る。

主題は夫婦愛の和合というところにあるが、事件を劇的に運ばせるために夫婦の別離から再結合へと持って回り、その間の波乱要素として狂乱と哀愁を加味している。

日下の里=大阪府中河内郡孔舎衙村にある。本曲において摂津としたのは誤り。


月も残り
地『うき寝忘るゝ難波江の。うき寝忘るゝ難波江の。蘆乃若葉を越ゆる白波。月も残り。花も盛りに津の国乃。小屋の住居乃冬籠り。今ハ春べと都乃空に。伴ひ行くや大伴乃。御津の浦曲の見つゝを契りに。帰る事こそ。嬉しけれ』

小謡
(上歌)『むつかしや。難波の浦乃よしあしも。難波の浦乃よしあしも。賤しき海士ハえぞ知らぬ。たヾ世を渡る為なれば假の命つがんとて。蘆を取り運びてこの市に出づる足数に。おあし添へて召されよやおあし添へて召されよや』

小謡
(上歌)『さのみハ何をかつゝみ井乃。隠れて住める小屋の戸を。押し開けて出でながら。面なの我が姿や。三年の過ぎしハ夢なれや。現にあふ乃松原かや。木蔭に圓居して難波の。昔語らん』

(役別) シテ 日下佐衛門、 ツレ 佐衛門ノ妻、 ワキ 妻ノ従者、 ワキツレ 供人(二〜三人)
(所要時間) 五十分