【あ】
007 海士(あま)


何を海松藻刈らうよ
サシ『これハ讃州志度の浦。寺近けれども心なき。あまのゝ里の海人にて候。げにや名に負ふ伊勢をの海士ハ夕波乃。内外の山乃月を待ち。濱荻の風を知る。また須磨の海士人ハ塩木にも。若木の櫻を折り持ちて。春を忘れぬ便もあるに。この浦にてハ慰みも。名のみあまのゝ原にして。花の咲く草もななし。何を海松藻刈らうよ。』

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 五番目(略初能)
(季節) 二月
(稽古順) 三級
(所) 讃岐国大川軍志度浦
(物語・曲趣) 藤原房前が、自分の母は讃岐志度の浦で死んだ蜑女(あま)であると聞いたので、その追善のために志度の浦に下る。

そこへ一人の蜑女が来て「実は、私があなたの母であるその蜑女なのです」と告げ、回向を乞い波の底に消え失せる。

そこで、房前が追善供養をしていると、母の蜑女は龍女となって姿を現し、法華経の功力で成仏が出来たことを喜ぶ。そして、ここを志度寺と号するようになり、仏法繁盛の霊地となったのである。

女人成仏ということを主題とする。成仏した女が龍女の姿で現れ、早舞を舞う。女が成仏して龍女になるということは、法華経の功徳に因るものとされている。

志度の浦=香川県大川郡志度町をいう。房前はそこの地名である。
追善=死者の冥福を祈る仏事。


深達福相遍照於十方
シテ『あらありがたの御弔ひやな。この御経に引かれて。五逆の達多ハ天王記別を蒙り。八歳の龍女ハ南方無垢世界に生を享くる。なほなほ転讀し給ふべし』
地『深達罪福相。遍照於十方』
シテ『微妙浄法身。具相三十二』
地『以八十種好』
シテ『用荘厳法身』
地『天人所戴仰龍神咸恭敬あらありがたの御経やな』

獨吟 仕舞
シテ『今この経の徳用にて』
地『今この経の徳用にて。天龍八部。人輿非人。皆遥見彼。龍女成仏さてこそ讃州志度寺と号し。毎年八講。朝暮の勤行。仏法繁盛の霊地となるも。この孝養と。うけたまはる』

(役別) 前シテ 海人、 後シテ 龍女、 子方 房前大臣、 ワキ 従者、 ワキツレ 従者(二〜三人)
(所要時間) 四十八分