【う】
013 雨月(うげつ)


月は洩れ雨はたまれと
ツレ『定めなき身乃住居までも』
シテ『賎が軒端を葺きぞわづらふ。賎が軒端を葺きぞわづらふ。面白や即ち歌の下の句なり。この上乃句を継がせ給はヾ。お宿ハ惜しみ申すまじ』
ワキ『もとより我も和歌の心。その理を思ひ出づる。月ハ洩れ雨ハたまれととにかくに』
シテ『賎が軒端を葺きぞわづらふ』
シテワキ『月は洩れ。雨ハたまれととにかくに。賎が軒端を。葺きぞわづらふ』

(作者) 金春禅竹
(曲柄) 
四番目(略初能)
(季節) 
八月
(稽古順) 
一級
(所) 
摂津国大阪市住吉
(物語・曲趣) 
西行法師が住吉に参詣して境内の釣殿のほとりにある庵に一夜の宿を求めると、そこには老人夫婦が住まっていた。

夫婦は、軒端の板ひさしについて「雨月の争い」をしていた。姥は「月の光が漏れるように軒を葺かない」と言うのに対し、翁は「村雨や落ち葉の音を聞くために葺こう」と言い争っていた。

このような争いの言葉が、はからずも、歌の下の句である「賎が軒端を葺きぞわづらふ」となったので、「この上の句を接いだら、宿を貸しましょう」と夫婦は法師に言う。

そこで、西行が「月は漏れ雨はたまれととにかくに」と詠むと、夫婦は法師が「月をも思い雨をさえ厭わぬ人である」と思い喜んで招き入れた。法師と夫婦はしばらく話し合った後で、夫婦は寝間へ立ち去った。

更け行く秋の夜に老人夫婦が落ち葉の音を聞いたりする、風流この上ない気分に浸る描写に主眼を置いている。

釣殿
=水上に設けた建物で、平安時代の建築様式に用いられた。
葺きぞわづらふ
=葺きかねている。
雨はたまれ
=雨は軒端に訪れよ。


そもそもこの神の
シテ『そもそもこの神乃。因位を尋ね奉るに。昔ハ兜率の内院にして。高貴徳王菩薩と号し。今ハまた玉垣の。内乃国に跡を垂れ。和歌を守りて住吉や。松林の下に住んで。久しく風霜を送る。ここに和歌乃人稀なる処に。西行法師歩みを運び給ひ。心を延ぶる和歌の友として。神明納受垂れ給ふこれによって。神慮の程を知らしめんと。宣祢が頭に乗りうつる』

小謡
(上歌)『折りしも秋なかば。折りしも秋なかば。三五夜中の新月乃。二千里の外までも。心知らるゝ秋乃空。雨ハ又瀟湘の。夜乃あはれぞ思はるゝ』

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 宮人、 ツレ 姥、 ワキ 西行法師 
(所要時間) 
三十五分