【う】
016 采女(うねめ)
はこぶ歩みの数よりも 上歌『はこぶ歩みの数よりも。はこぶ歩みの数よりも。積る櫻の雪乃庭。また色添へて紫の。花を垂れたる藤の門ああくるを春の。景色かなあくるを春の景色かな』 |
(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節) 三月
(稽古順) 一級
(所) 大和国奈良猿澤池
(物語・曲趣) 諸国一見の僧が南都の春日の杜に詣うでていると、ひとりの女が木を植えている。
僧は「何のために植えるのか」と訊ねると、女は「この杜の縁起によって、神の御心に添わんがためである」と答える。
その後、女は僧を猿澤の池に連れて行き読経を頼むので、僧は「誰のためにするのか」と聞く。
すると、女は「昔ある采女がこの池に身を投げて死んだ物語」をしたのち、「実は私がその采女である」と告げて、池の底に姿を隠した。
その夜、僧が池のほとりで読経をしていると、采女の幽霊が在りし昔の姿で現れて「その頃の采女の生活や逸話など」を語り、舞を舞ったりした後に「なお一層弔ってください」と頼んで、再び池の底に沈んで行った。
身を投げて死んだ采女の哀れさよりも、南都の情緒の方に重きを置いた曲であると理解すべきである。
春日の杜=興福寺をいう。
御土器たびたび廻り シテ『然れば采女の戯れ乃』 地『色音に移る花鳥の。とぶさに及ぶ雲の袖。影も巡るや盃の。御遊乃御酒のをりをりも。采女の衣乃色添へて。大宮人の小忌衣。櫻をかざす朝より。今日も呉織声の文をなす舞楽の曲。拍子を揃へ。袂を翻して。遊楽快然たる采女の衣ぞ妙なる。とりわき忘れめや曲水の宴乃ありし時。御土器たびたび廻り。有明の月更けて。山郭公。誘ひ顔なるに叡慮を受けて遊楽の月に啼け』 |
■小謡 (上歌)『はこぶ歩みの数よりも。はこぶ歩みの数よりも。積る櫻の雪乃庭。また色添へて紫の。花を垂れたる藤の門ああくるを春の。景色かなあくるを春の景色かな』 ■小謡 (上歌)『あらかねのその始め。あらかね乃その始め。をさまる国ハ久方乃。あめはヽこぎの緑より。花開け香残りて。仏法流布の種久し。昔ハ霊鷲山びして。妙法華経を説き給ふ。今ハ衆生を度せんとて大明神と現れこの山に住み給へば。鷲の高嶺とも。三笠の山を御覧ぜよ。さて菩提樹の木蔭とも。盛りなる藤咲きて松にも花を春日山。のどけき影ハ霊山の浄土乃春に。劣らめや浄土の春に劣らめや』 |