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017 雲林院(うんりんゐん)
冠の巾子にうち披き シテ『信濃路や』 地『園原茂る木賊色の。狩衣の袂を冠の巾子にうち被き。忍び出づるや如月乃。黄昏月もはや入りて。いとゞ朧夜に。降るハ春雨か。落つるハ涙かと。袖うち払ひ裾を取り。しをしをすごすごと。たどりたどりも迷ひ行く』 |
(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 四番目(略三番目)
(季節) 二月
(稽古順) 一級
(所) 京都洛北紫野雲林院
(物語・曲趣) 少年の頃から伊勢物語を愛読していた攝津国芦屋の公光が、ある夜の夢に刺激されて京都紫野の雲林院に参る。
ちょうど花の盛りであったので、その一枝を折ると、一人の老翁が現れてそれを咎め、また花折の是非について古歌を引いて風雅問答をする。
その後で、公光が「伊勢物語の草子を手にした在原業平が、二条の后とともにこの雲林院の花の影に潜んでいる夢を見たので、ここに来たのです」と言う。すると、老翁は「それは伊勢物語の秘事を授けられるのであろうから、今夜はそこで奇特をお待ちなさい」と言って、夕闇の中に消え失せた。
やがて夜になり、業平の霊が現れ、伊勢物語のことを語ったり、昔を追憶して夜遊の舞楽を奏したりしていたが、明け方になって公光の夢は覚める。
業平の霊が伊勢物語の愛読者に秘事を授けるというのが眼目であるが、その秘事とは一種の遊戯的解釈であって、本意とするところは幽玄無上の舞を舞わせるところにあると考えた方が良い。
伊勢物語の草子=伊勢物語の書物。
■小謡 (上歌)『げに枝を惜しむハ又春のため手折るハ。見ぬ人のため。惜しむも乞ふも情けあり。二つの色乃争ひ柳櫻をこき交ぜて。都ぞ春の。錦なる都ぞ春の錦なる』 |