【え】
019 箙(えびら)
鶯宿梅の木の下に 地『御身他生の縁ありて。一樹乃陰乃花の縁に。鶯宿梅の木乃下に。宿らせ給へ我ハまた世を鶯乃塒ハこの花よとて。失せにけりこの花よとてぞ失せにける』 |
(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 二番目 修羅物
(季節) 二月
(稽古順) 五級
(所) 攝津国神戸生田神社内生田森
(物語・曲趣) 都見物を思い立った西国方の僧が、攝津の国生田川の辺りを通りかかり、今を盛りと咲いている梅の木を見て、折から来あわせた年若い里人に対して「これは名木か」と尋ねる。
里人は「源平が昔この地で戦ったときに、梶原源太景季がこの梅の花一枝を折り、箙に指して笠印とした。そして景季は名を上げたので、後世の人がこの木を箙の梅と称している」と教えた後、一の谷の合戦の様子を語った。その後、「自分はその景季の幽霊である」と名乗って消え失せた。
僧が花の木陰で寝ていると、若武者姿の景季の霊が箙に梅の花一枝を挿して現れる。そして、修羅道の苦患やこの川のほとりで戦ったときの様子などを物語った後、僧に回向を乞いながら消え失せた。
梅の花に凛とした美しさがあるように、梅花一枝を箙に挿して戦った景季の姿にも若々しさと勇ましさがあるところを狙っている。
景季=景時の子。景季はこのとき二十三歳。
郎等三騎に後を合はせ シテ『兜も打ち落とされて』 地『大童ノ姿となって』 シテ『郎等三騎に後を合はせ』 地『向ふ者をば』 シテ『拝み打ち』 地『また廻り逢へば』 シテ『車斬』 |
■小謡 (上歌)『閻浮に帰る妄執乃。閻浮に帰る妄執乃。その生死乃海なれや。生田の川乃幾夜まで夢の巷に迷ふらん。よしとても見の行方定めありとても終にハ夢の直路に。帰らん夢の直路に帰らん』 ■小謡 (上歌)『名を留めし。主ハ花の景季乃。主ハ花の景季乃。末の世かけて生田川乃。身を捨てヽこそ。名ハ久し武士乃。弥猛心の花に引く弓筆の名こそ妙なれや弓筆の名こそ妙なれ』 |