【え】
021 繪馬(えま)


クセの中
クセ『僧正遍照ハ。歌の様ハ得たれども誠すくなし喩へば。絵に描ける優女の姿にめでゝ徒らに。心を動かすハ。浅緑糸よりかけて繋ぐ駒ハ二通かけてなかなか怨みしハ。恋路の空情。逢ふさへ夢の手枕』

(作者) 作者不明
(曲柄) 
初番目
(季節) 
節分
(稽古順) 
一級
(所) 
伊勢国多気郡斎宮
(物語・曲趣) 
勅使となって伊勢へ下向の臣下が斎宮に着くと、その夜は節分絵馬を掛ける行事があると言うので、その様子を見るために逗留する。

すると、夫婦と思える老翁と姥が絵馬を携えてやって来る。姥は雨の占いを示す黒絵馬を掛けようと言うのに対し、老翁は日照りの占いを示す白絵馬にしようと言う。しばらくして、「人民快楽のお恵みを祈るためには両方の絵馬を掛けた方が良かろう」と意見が一致して、二人は絵馬を並べ掛けた。

その後で、「自分等は伊勢二柱の神が、夫婦となって現れたのである」と言って消え失せる。

やがて、月読の明神が月光を輝かして現れた後、五色の雲が輝くなかを天照大神が天鈿女命(あまのうずめのみこと)と手力雄命(たちからおのみこと)とを従えて影向され、舞を舞われた。

その後、天照大神は「神代の昔、天岩戸から再び御姿を現された」ときのことを語り、太平の御代が続くようになったことを祝われる。

前段では絵馬の行事を、後段では天岩戸隠れの神話を取り扱っている。五穀豊穣の祈願・天下泰平の賛美も当然の構想となっている。白と黒と二つの絵馬を掛けることにしたのは、「雨をも降らし、日をも待ちて、人民快楽のお恵み」を与え給うという意味であろう。

斎宮
=伊勢国多気郡多気郷にあった斎宮の御所を指す。今はこの古蹟の地を斎明村と呼ばれている。
節分
=ここでは冬の節より春の節に変わり目の日を指す。
絵馬
=神社仏閣等に奉納する馬の絵の額。元来は、神馬を奉納する代わりとして奉献したものである。
伊勢二柱
=内宮外宮すなわち天照大神と豊受大神のこと。ここでは日神月神を指し、かつ、これを夫婦神として作った。
月読の明神
=内宮七別宮の一つ。月読の尊を祀った神。ここは月を指して月読の明神の尊容という。


中之舞の中
シテ『昔。天の岩戸に閉ぢ篭りて。天の岩戸に閉ぢ篭りて。悪神を懲しめ奉らんとて日月二つの御影を隠し。常闇の世乃さて何時までか。荒ぶる神々。これを嘆きていかにも御心。とるや榊葉の。青和幣。白和幣。色々様々に謡ふ神楽の韓神催馬楽。ちはやぶる』

小謡
(上歌)『天つ日嗣の代々古りて。人皇末代の子孫までありし恵みを受け継ぎて。治まる御世の我等まで。及ばぬ君を仰ぎつゝ。夜昼仕へたてまつる夜昼仕へたてまつる』

■地『かけまくも忝や。これをぞ頼む神垣に。絵馬ハ掛けたりや。国土豊かになさうよ』

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 女神、 前ツレ 姥、 後ツレ 天鈿女命、 後ツレ 手力雄命、 ワキ 勅使、 ワキツレ 従者
(所要時間) 
二十八分