【お】
022 老松(おいまつ)


神慮もいかヾ
(下歌)『守る我さへに老が身乃。影古びたるまつ人の。翁さみしき木の下を。老松と御覧ぜぬ神慮もいかヾ恐ろしや』

(作者) 世阿弥元清 
(曲柄) 初能 一番目 神祇物
(季節) 正月
(稽古順) 一級
(所) 筑前国筑紫郡大宰府安楽寺
(物語・曲趣) 都の西に住む梅津何某が、日ごろ信仰する北野天神の霊夢に従って筑前大宰府の安楽寺に参詣する。すると老若の二人の男が来て、今を盛りの梅の花垣を囲うので、飛梅とその傍らにある老松のいわれを聞く。

二人はその来歴を語り、「梅と松は唐土においても特に賞美されている木である」ことを語って、立ち去った。

その夜、梅津何某は老松の影で、神の告げを待っている。すると老松の神霊が現れ「今夜の客人を慰めん」として、いろいろな舞楽を奏し「君が代を長久に守らん」という神託を告げた。

寒中に膨らみ、春のさきがけとして花を開く若々しい清い梅の花と、寒さにも衰えを見せない威厳のある老松とを一つにする事によって、早春の季節的感覚のほかに、神霊の威厳や御代のめでたさなどを表現しようとしたものである。

梅津何某=京都市嵯峨の南方。昔ここに梅津姓の者が多く住んでいた。
安楽寺=福岡県太宰府にあり、菅原道真を葬った寺。
花垣=花木を囲みめぐらした垣。
飛梅=安楽寺境内にあり、菅公の「東風吹かば匂いおこせよ…」の詠に感じて、都から筑紫に飛び移ったという伝説の梅の樹。
老松=飛梅とともに安楽寺にある名木で、老松伝説は扶桑略記に見える。


巌となりて
シテ『さす枝乃』
地『さす枝の。梢ハ若木乃花の袖』
シテ『これハ老木乃神松の』
地『これハ老木乃神松の千代に八千代に。さヾれ石の。巌となりて。苔の乃むすまで』
シテ『苔のむすまで松竹。鶴亀の』

小謡
(上歌)『松が根の。岩間を伝ふ苔筵。岩間を伝ふ苔筵。敷島の道までもげに末ありやこの山乃。天霧る雪乃古枝をも。なほ惜しまるゝ花盛り。手折りやすると守る梅乃。花垣いざや囲はん梅乃花垣を囲はん』

小謡
シテ『かやうに名高き松梅の』
地『花も千代まで乃。行末久に御垣守。守るべし守るべしや神ハこゝも同じ名乃。天満つ空も紅の。花も松も諸共に。神さびて失せにけりあと神さびて失せにけり』

小謡
地『齢を授くるこ乃君の。行末守れと我が神託乃。告を知らする。松風も梅も。久しき春こそ。めでたけれ』

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 老松ノ精、 ツレ(前) 男、 ワキ 梅津何某、 ワキツレ 従者(二人)
(所要時間) 三十二分