【お】
023 大原御幸(おはらごこお)


極重悪人無他方便
後シテ『昨日も過ぎ今日も空しく暮れなんとす。明日をも知らぬこの身ながら。たゞ先帝の御面影。忘るゝ隙ハよもあらじ。極重悪人無他方便。唯称弥陀得生極楽。主上を始め奉り。二位殿一門の人々成等正覚。南無阿弥陀佛。や。庵室の邊に人音の聞え候』

(作者) 世阿弥元清。ただし能本作者註文及び歌謡作者考には作者不明。
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節) 四月
(稽古順) 九番習
(所) 山城国愛宕郡大原村寂光院
(物語・曲趣) 建禮門院は長門国早鞆の沖で平家一門没落の際に入水されたが、源氏の兵に救われて、山城國大原の寂光院で遁世の生活を送っておられた。

そこへ、後白河法皇が建禮門院をお訪ねになるというので、役人がその準備を申し付けられ、また御庵室では女院が大納言を伴われてを採りに山へ行かれた。 

そのお留守の間に法皇がご到着になり、留守居の阿波内侍と語っておられるうちに、女院が帰って来られて法皇の御幸を拝謝された。

法皇のお尋ねに答えて、女院は「西海に流離されて六道の苦患を経験したことや安徳天皇御最期のこと」などを語られて、涙に沈まれた。その後、女院は還幸のお見送りをされた後、やがて御庵室に入られた。

夏草の生い茂った中にある庵室で、かつては華やかな生活をされていた女性が、今は尼となってさびしく暮らしておられる。秋の寂しさでなく、初夏の頃の持つ寂しさは陽春の名残を惜しむ風情がある。この風情を強調した曲である。平家没落直後の物語である。

早鞆の沖=長門国下関海峡の海。
=しきみ。枝や葉を仏前に供える。
六道=地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の六道の有様。

小謡
(上歌)『賎が爪木の音。賎が爪木乃斧の音。梢の嵐猿の声。これらの音ならでハ。真析の葛青葛来る人稀になり果てゝ。草顔淵が巷に。滋き思ひの行くへとて。雨原憲が樞とも濕ふ袖の涙かな濕ふ袖の涙かな』

小謡
(上歌)『古りにける。岩の隙より落ち来る。岩の隙より落ち来る。水の音さへ由ありて。緑蘿の垣翠黛の山。檜に描くとも。筆にも及び難し。一宇の御堂あり。甍敗れてハ霧不断の香を?き。樞落ちてハ月もまた常住の燈火を挑ぐとハかゝる所か物凄やかゝる所か物凄や』

(役別) 前シテ 女院、 後シテ 前同人、 ツレ 大納言局、 ツレ 阿波ノ内侍、 ツレ(後) 法皇、 ワキ(後) 萬里小路中納言、 
ワキツレ(前) 大臣、 ワキツレ 輿舁(二人)  
(所要時間) 七十分