【か】
024 杜若(かきつばた)

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節)
 四月
(稽古順) 一級
(所) 三河国碧海郡八幡
(物語・曲趣) 廻国の旅僧が三河国のある澤邊に美しく咲いている杜若を眺めていると、ひとりの女が僧に言葉をかけたので、僧は女にここの場所の名を尋ねた。

すると女は「ここは杜若で有名な八橋です」と答え、伊勢物語にある在原業平の杜若の歌について語った後、僧を自分の庵に連れて帰る。

庵に帰った女は、美しい冠と唐衣を着けて「これを見てください」と言うので、僧はその訳を尋ねる。すると女は「これが業平の歌にある唐衣であり、冠はかつて業平が召されていたものです」と答えた。

そこで、僧はこの女の素性を尋ねると、「私は実は杜若の精ですが、業平は歌舞の菩薩の化現ですから、その詠歌のおかげで非情の杜若も成仏できたのです」と言い、舞を奏した後に消え失せる。

仏教思想に基づいて非情の草木を人格化した曲のひとつであるが、美しい杜若の花というところから、妙齢の美人としての美しさの強調が企てられている。

八橋=愛知県碧海郡牛橋村に八橋という字の名が残っている。
冠と唐衣=冠は男の物。唐衣は女服。

(役別) シテ 杜若ノ精、 ワキ 旅僧
(所要時間) 四十三分