【か】
031 神歌(かみうた)


およそ千年の鶴は
シテ『およそ千年の鶴ハ。萬歳楽と謳うたり。また萬代の池乃亀ハ。甲に三極を備へたり。渚乃砂。さくさくとして朝乃日の色を瓏じ。瀧の水。玲々として夜乃月あざやかに浮かんだり。天下泰平。国土安穏。今日乃御祈祷なり。ありはらや。なぞの。翁ども』

翁猿楽または式三番と称される曲の詞章である。

「翁」の歌詞が「神歌」と呼ばれて特に重んじられるのは、「翁」が神聖な演伎として特に重んじられるからである。

「翁」の演伎は、千歳乃舞、翁乃舞、三番叟乃舞の三つからなっており、しかも三つの舞をただ並べてあるだけで、筋の展開もなければ結末の展開もない。

しかし、演出の精神はむしろそれを神聖視することに表れているので、この三種の舞を天下泰平・国土安穏の祈祷として取り扱うようになっているところにその主題があり、その重要性があると考えるべきである。

またその精神は、遐齢延年の祝福をも意味するものであり、その祝福は「君」に対しても「我ら」に対しても与えられているものである。

なお、翁は能にして能にあらず、天下泰平、国家安穏の祈祷なりと称せられ、演奏の形式も全く他の曲と異なっていることに留意すべきである。

翁猿楽=本来仏教寓意のものであったが、室町時代の中期の頃に吉田流の神道と結合して、翁は天照大神を、千歳は戸隠明神を、三番申楽は春日明神をそれぞれ形どるものだという解釈を採り入れ、翁の詞章をも神歌と唱えるに至った。
式三番=しきさんば。さんばそう(三番叟)。

萬歳楽
シテ『千秋萬歳の。喜び乃舞なれば。一舞舞はう萬歳楽』
地『萬歳楽』
シテ『萬歳楽』
地『萬歳楽』

(役別) シテ 翁、 ツレ 千歳
(所要時間) 十分