【こ】
046 恋重荷(こいのおもに)

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 四番目 (略三番目)
(季節) 九月
(稽古順) 重習 中伝
(所) 京都堀河
(物語・曲趣) 白河院の御所で菊守をしている山科の荘司女御を密かに恋しているらしいということを院の臣下が聞き知った。

そこで臣下は女御の思し召しでこのことを諦めさせようと、綾羅錦繍で包んだ重荷を見せて、「これを持ってお庭を百度も千度も回ったら、女御のお姿を拝ませよう」と荘司に言い聞かせた。

荘司は喜んで重荷を持とうとしたが持つことが出来ず、精根を使い果たして、怨みながら死んでしまった。

不憫に思った臣下は女御にことの次第を申し上げ、「荘司の姿をひと目ご覧ください」と勧めた。

女御はお庭に出られて情けある言葉をかけられた後、立とうとされると磐石にでも押されたようで立つことが出来ない。

その時、荘司の怨霊が現れて誠ない言葉を責めたが、「亡き跡を弔い給われば、怨みを捨てて千代のお守りとなるべし」と誓うのである。

荘司はすさまじい恋をしたのが重荷となって、その重荷のために死んだのである。

綾羅錦繍に包まれた重い石は、すなわちこの無理な恋の象徴である。

主題は、弄ばれた恋の執念の強さを表現するところに置かれていながら、転心と妥協によってその執念の恐ろしさはだいぶん緩和されるのである。

白河院=白河天皇を指すが、本曲の筋はもちろん仮作であって、この天皇の御時にこのような事蹟があったのではない。
山科の荘司=山科は京都市山科町。荘司は荘園の事務を司る役人。
女御=未だ皇后の宣下を賜らない方の称。ここは白川院の女御の意であるが、もちろん架空である。

(役別) 前シテ 山科荘司、 後シテ 荘司ノ亡霊、 ツレ 女御、 ワキ 臣下
(所要時間) 四十三分