【こ】
048 小鍛冶(こかぢ)


教への槌を
シテ『童男壇の。上に上がり』
地『童男壇の上に上がって。宗近に三拝の膝を屈し。さて御剱乃鉄ハと問へば。宗近も恐悦の心を先として鉄取り出し。教への槌を。はつたと打てば』
シテ『ちゃうと打つ』
地『ちゃうちゃうちゃうと打ち重ねたる槌乃音。天地に響きて。おびたゝしや』

(作者) 不明
(曲柄) 切能 五番目 (略初能)
(季節) 不定
(稽古順) 五級
(所) 京都三条栗田口小鍛冶宗近邸
(物語・曲趣) 不思議な御夢想を受けられた一条院は、橘の道成を勅使として出し、「三条の小鍛冶宗近に御剣を打つべし」と命ぜられる。

宗近は、御剣を打つためには「自分に劣らないほどの者が相槌に必要である」と思ったが、適当な者がいないので、この上は「奇特を頼むよりほかはない」と思い、氏の神である稲荷明神に祈願のため参詣する。

すると、ひとりの童子が現れて「君の御恵みによって御剣は必ず成就するであろう」と安心させ、さらに和漢における剣の威徳を語った後、「通力の身を変じて力を添えよう」と言って、消え失せた。

そこで、宗近は帰宅して壇の四方に祀った本尊に祝詞を捧げると、稲荷明神が現れて相槌を打たれ、打ち上げた剣を小狐丸と名づけて勅使に捧げ、再び稲荷山に帰られるのである。

刀剣の名工三条の小鍛冶宗近が、神霊の助けによって勅命の御剣を打つ。神霊の活躍に重きを置いていることはいうまでもないが、その神霊は稲荷の明神である。刀鍛冶の苦心を取り扱って、それに名劔の奇瑞を結びつけたものである。

一条院=第六十六代一条天皇。
橘の道成=仮作の人物であろう。
相槌=鍛刀の時に、宗近の対手になって、向い槌を打つ者。
奇特=不思議な瑞験。
氏の神=氏神。祖先神。
稲荷明神=京都市伏見区深草町にある稲荷神社。倉稲魂命、猿田彦命、大宮女命の三柱を祀る。この神社は、もとは秦氏が氏の神として祭った社。
剣の威徳=鍾馗の持つところの剣の威徳。
通力の身=神通力を有する身。

小謡
(上歌)『壁に耳。岩の物言ふ世乃中に。岩の物言ふ世乃中に。隠れハあらじ殊になほ。雲の上人の御剱乃。光ハ何か暗からん。たゞ頼めこの君乃。恵みによらば御剱もなどか心に』

(役別) 前シテ 童子、 後シテ 稲荷明神、 前ワキ 三条宗近、 後ワキ 前同人、 ワキツレ 勅使
(所要時間) 二十八分