【し】
057 鍾馗(しょおき)

(作者) 享保六年観世大夫書上、歌謡作者考、異本謳曲作者はそれぞれ世阿弥作としているが、能本作者註文、享保六年金春八左衛門書上、二百十番謳目録、自家伝抄にはそれぞれ禅竹作とある。
(曲柄) 五番目 (略初能)
(季節) 九月
(稽古順) 四級
(所) 支那陝西省關中道西安(長安)
(物語・曲趣) 唐土終南山の麓に住む旅人が奏聞のため都に上る途中で、後ろから呼び止める者がいた。

旅人が何事かと尋ねると、「自分は悪鬼を滅ぼして国土を守ろうという誓いを立てている者であるが、君が仁政を施されるのであれば宮中に現れて奇瑞を見せようと思うので、このことを奏上してください」と言う。

旅人は怪しんで名前を聞くと、「自分は鍾馗という者で、進士の試験に及第する前に、自殺した時の執心を翻して後の世に望みを抱いているのです」と語り、人生のはかなさを説いていたが、その後で「真の姿を現そう」と言って神通力を示しながら消え失せた。

そこで、旅人が法華経を読誦して弔っていると、鍾馗の神霊が寶劒を提げて現れ出て悪鬼を退治して、国土を守護しようとするその誓願の威力を示すのである。

鍾馗は王道守護の鬼神として伝えられている。

その後、疫鬼駆除の鬼神としても祀られるようになったが、伝説の本源は王道守護の鬼神であった。この曲ではそれを取り上げて、猛烈な鬼神ぶりを示すことを主眼としている。

唐土終南山=支那陝西省西安府の西南にあり、秦嶺山脈中の一峰。
奇瑞を見せよう=奇特な瑞相を示してお目にかけるであろう。
鍾馗=支那唐代の初めにいたという伝説上の人物。
進士=唐代に官吏登用試験に及第した者。

(役別) 前シテ 里人、 後シテ 鍾馗、 ワキ 旅人
(所要時間) 十九分