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061 須磨源氏(すまげんじ)
(作者) 世阿弥元清。ただし、観世大夫書上は観阿弥・世阿弥両人の作としている。
(曲柄) 四・五番目
(季節) 三月
(稽古順) 一級
(所) 摂津国神戸市西須磨
(物語・曲趣) 日向国宮崎の社官藤原興範が、伊勢参宮の途中に須磨の浦に着く。

そこへ芝を背負った老翁が来て、櫻の木陰に立ち寄って花を眺めているので、興範は老翁に「それは由緒ある木か」と尋ねた。

翁は「これは昔、光源氏の住居にあった若木の櫻である」と答え、問われるままに光源氏の生涯についていろいろ語った後、「自分がその源氏である」ことをほのめかして消え失せた。

そこで興範は、なおも奇特を拝もうと思って旅寝をしていると、青鈍の狩衣をたおやかに着こなした源氏の君が兜率天から降って来た。そして、夜もすがらこの浦の辺で舞を舞い、夜の明けかかる頃その姿を消すのである。

「源氏供養」は源氏物語の作者紫式部をシテにした曲であるが、この「須磨源氏」は源氏物語の主人公光源氏をシテとして、その一生について語った曲である。

藤原興範
=後撰集に太宰大貳と見える歌人。宮崎の社官としたのは謡曲作者の仮託である。
光源氏=源氏物語の主人公の名。
若木の櫻=源氏物語須磨の巻に見える名。後世は名木として扱われた。
兜率天=とそつてん。光源氏が死後に兜率天上に生まれたという考え方は、謡曲作者が構想したもの。兜率天は須弥山上にあり、弥勒菩薩の浄土である。

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 光源氏、 ワキ 藤原興範、 ワキツレ 従者
(所要時間) 三十五分