【せ】
063 誓願寺(せいぐゎんじ)
(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節) 三月
(稽古順) 一級
(所) 京都市小川一条北誓願寺
(物語・曲趣) 一遍上人が六十萬人決定往生の御札を広めようと、誓願寺で御札を人々に授けていると、御札を受けたひとりの女が「御札には六十萬人決定往生とありますが、往生の人数に限りがあるのですか」と訊ねた。

一遍上人は、「六十萬人とは、単に四句の文の上の字を取っただけのこと」と答え、念仏の功徳を女に説く。

女はそれを聞いて喜び、「誓願寺とある額を除いて六字の名号に書き換えてください。私はこの寺に墓のある和泉式部なのです」と言って消え失せた。

そこで、上人が寺の額を六字の名号に書き換えて仏前に移す。すると、和泉式部が歌舞の菩薩となって現れ、当寺の縁起や神仏の隔てないことなどを語り、歌舞を奏した。

そして、來現の他の諸菩薩もあの六字の額を礼拝するのである。

所を和泉式部の墓のある誓願寺とし、宗教的情趣と和泉式部による優美感との融合を企てた曲である。

一遍上人=時宗の開祖。鎌倉時代正応二年に五十一歳で寂した。
決定往生の御札=必ず極楽に往生するという御札。
誓願寺=もとは大和にあり、次いで桓武天皇の時に深草に移され、後に京都元誓願寺町小川西に移された。
四句の文の上の字=六字、十界、萬行、人中の四句の上の字をと取って六十萬人となる。
六字の名号=南無阿弥陀仏の名号は一切の法界にあまねく、萬物は皆この中に含まれるとの意。

(役別) 前シテ 女、 後シテ 和泉式部、 ワキ 一遍上人、 ワキツレ 従僧(二〜三人)
(所要時間) 五十分