【そ】
068 草子洗小町(そおしあらいこまち)


洗ひ洗ひて
地『住吉の。住吉の。久しき松を洗ひてハ岸に寄する白波をさつとかけて洗はん。洗ひ洗ひて取り上げて。見れば不思議やこハ如何に。数々乃その歌乃。作者も題も。文字の形も少しも乱るゝ事もなく。入筆なれば浮草の。文字ハ一字も。残らで消えにけり。ありがたやあありがたや。出雲住吉玉津島。人丸赤人の御恵みかと伏し拝み。喜びて龍顔にさしあげたりや』

(作者) 世阿弥元清。ただし二百十番謳目録及び自家伝抄は観阿弥作。
(曲柄) 三番目
(季節) 四月
(稽古順) 三級
(所) 前、京都小野小町邸
     後、京都内裏
(物語・曲趣) 内裏の御歌合で小野小町の相手と決まった大伴黒主は、自分はとても小町には勝てないと思って、その前日、小町の家に忍び入り、小町の詠歌を聞き得ることに成功した。

そして、萬葉集に入れ筆をして、その歌を古歌と偽って小町に勝とうと企てる。

翌日の御会の席で貫之が小町の歌を読み上げると、黒主は「それは萬葉の古歌だ」と言う。

それを聞いた小町は驚いてその証拠を求めると、黒主は萬葉の草子を出して示す。

しかし、小町はそれが入れ筆である事を見破り、勅許を得てこの草子を洗う。すると、その歌の文字が消失したので黒主は面目を失って自害しようとする。

その時、小町はそれを支えて「歌道に熱心なあまりの間違いだから」と言って慰め、舞いを舞って御代の長久を祝い、和歌の徳を称えるのである。

歌合=歌人を左右の組に分け、判者を設けて詠歌の優劣を評して勝負を決める一種の遊びである。
入れ筆=書き入れる事。書き込み。
萬葉の草子=萬葉集を書いた書物。

(役別) 前シテ 小野小町、 後シテ 前同人、 ツレ(後) 紀貫之、ツレ(後) 壬生忠岑河内躬恒、 ツレ(後) 官女(2人)、 子方 王、
前ワキ 大伴黒主、 後ワキ 前同人

小謡
(上歌)『げに島隠れ入る月の。げに島隠れ入る月の。淡路の絵島国なれや。始めて歌の遊びこそ心和らぐ道となれ。その歌人の名所も。皆庭上に竝み居つゝ。君の宣旨を待ち居たり』

(所要時間) 四十三分