【た】
071 當麻(たえま)


二上の嶽とハ
地『光さして。花降り異香薫じ。音楽乃声すなり。恥かしや旅人よ暇申して帰る山の。二上の嶽とハ二上の。山とこそ人ハ言へど。真ハこの尼が上りし山なる故に。尼上の嶽とは申すなり老の坂を上り上る雲に乗りて上りけり紫雲に乗りて上りけり』

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 四番目(又は五番目) (略初能)
(季節) 二月
(稽古順) 九番習
(所) 大和国北葛飾郡當麻寺 
(物語・曲趣) 念仏の行者が大和の當麻寺に参ると、気高い老尼が若い女と一緒に出て来て、行者に付近の名所を教えたり、當麻寺の縁起を語る。

老尼は「今宵は二月十五日、しかも時正の時節なので法事のために来た」と言い、最後に「実は私はその昔の化尼と化女である」ことを明かして、紫雲に乗って昇天した。

その後で、中将姫の精魂が現れ法徳をたたえて舞を舞ったが、後夜の勤行を行うと見て、僧の夢は覚めた。

本曲はいうまでもなく弥陀の霊験を讃美しようとしたものであるが、気高い老尼と若く美しい中将姫といった前後の変化もまた作者の狙いどころであったと考えられる。

念仏の行者=念仏宗の修行者。
時正=じしょう。昼夜平分の日。彼岸の中日。
化尼と化女=仏が尼や女に化現したもの。化尼は弥陀、化女は観音と伝えられる。


戴き奉れや
地『惜しむべしやな惜しむべしやな。時ハ人をも。待たざるものを。即ち此処ぞ。唯心の浄土経戴き奉れや』

小謡
上歌『説き遺す。御法ハこれぞ一声の。御法ハこれぞ一声の。弥陀乃教へを頼まずハ。末の法。萬年々経るまでに余興乃法ハよもあらじ。たまたまこの生に浮かまずハ。また何時乃世を松の戸乃。明くれば出でゝ嘗るゝまで法乃場に交るなり御法の場に交るなり』

小謡
上歌『色はえて。懸けし蓮乃糸櫻。懸けし蓮乃糸櫻。花の錦乃経緯に。雲の絶間に晴れ曇る雪も緑も。たゞ一声乃誘はんや西吹く秋の風ならん西吹く秋の風ならん』

(役別) 前シテ 化尼、 後シテ 中将姫、 ツレ(前) 化女、 ワキ 旅僧、 ワキツレ 従者(二〜三人)
(所要時間) 五十三分