【た】
072 高砂(たかさご)


掻けども落葉の尽きせぬは
シテ『高砂乃。尾上の鐘の音すなり』
地『暁かけて。霜ハ置けども松が枝乃。葉色ハ同じ深緑立ち寄る蔭の朝夕に。掻けども落ち葉乃尽きせぬハ。真なり松の葉乃散り失せずして色ハなほ真柝乃葛ながき世の。喩へなりける常盤木の中にも名ハ高砂乃。末代の例にも相生乃松ぞめでたき』

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 真初能 一番目 神祇物
(季節) 二月
(稽古順) 一級
(所) 前、 播磨国加古郡高砂
     後、 摂津国大阪市住吉
(物語・曲趣) 時は春の初め、所は播州高砂の浦。その浦にある高砂の松の木陰にともに白髪となった老人夫婦が来て、掃き清める。

都に上る途中にこの浦に立ち寄った肥後国阿蘇の宮の神主友成は、この夫婦を見て、「高砂の松というのはどの木か」と訊ね、さらに「国を隔てた高砂の松と住吉の松とを相生の松というわけ」や「高砂の松のめでたいいわれ」などについて訊ねる。

夫婦は、故事などを引いて詳しく答えた後、「実は私どもがその相生の松の精である」と打ち明け、「住吉でお待ちしましょう」と言って、小舟に乗って沖の方へ消え失せた。

そこで、友成も舟で住吉へ行くと、住吉明神が影向されて神舞を舞い、御代萬歳・国土安穏を祝われる。

名高いふたつの松の精を老夫婦として、相生の夫婦・友白髪の夫婦と祝い、その上に国土安穏・御代長久の祝意を込めたものである。

四季を通じて時葉を落とすことなく、老いてますます栄えを見せる松の讃美を主題としており、祝賀慶福の意味を託するのに都合よく出来ているので、もっともめでたい代表的な作品とされている。

高砂の浦=兵庫県加古郡高砂町の海岸。歌枕として著名な旧跡。
阿蘇の宮=阿蘇郡宮地町にあり、建磐龍命、阿蘇津姫命、速瓶玉命を祀る。


二月の雪衣に落つ
地『西の海。檍が原乃。波間より』
シテ『現れ出でし。神松の。春なれや。残ん乃雪の浅香潟』
地『玉藻刈るなる岸陰乃』
シテ『松根に倚つて腰を摩れば』
地『千年の翠。手に満てり』
シテ『梅花を折って頭に挿せば』
地『二月の雪衣に落つ』

小謡
上歌『所ハ高砂の。所ハ高砂の。尾上の松も年ふりて。老の波も寄り来るや。木の下蔭の落葉かくなるまで命ながらへて。なほ何時までか生の松。それとも久しき名所かなそれも久しき名所かな』

小謡
上歌『四海波静かにて。国も治まる時つ風。枝も鳴らさぬ御代なれや。あひに相生乃。松こそめでたかりけれ。げにや仰ぎても。事も疎かやかゝる代に。住める民とて豊なる。君乃恵みぞありがたき』

小謡
シテ『高砂乃。尾上の鐘の音すなり』
地『暁かけて。霜ハ置けども松が枝乃。葉色ハ同じ深緑立ち寄る蔭の朝夕に。掻けども落ち葉乃尽きせぬハ。真なり松の葉乃散り失せずして色ハなほ真柝乃葛ながき世の。喩へなりける常盤木の中にも名ハ高砂乃。末代の例にも相生乃松ぞめでたき』

祝言・小謡
『千秋楽ハ民を撫で。万歳楽にハ命を延ぶ。相生乃松風諷々乃声ぞ楽しむ諷々乃声ぞ楽しむ』

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 住吉明神、 ツレ(前) 姥、 ワキ 阿蘇宮神主友成、 ワキツレ 従者(二人)
(所要時間) 三十八分