【つ】
079 土車(つちぐるま)

(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 四番目 (略二番目)
(季節) 不定
(稽古順) 二級
(所) 信濃国長野市善光寺
(物語・曲趣) 深草の少将は、妻に死別してから世をはかなみ、ひとりの子を捨てて出家して、諸国を廻りながら信濃の善光寺にやって来る。

一方、若君のの小次郎は、父を慕う幼主のありさまを見るに忍びず、土車に幼主を乗せて物乞いとなり、時には物狂いを装ったりしながら善光寺に来て祈願する。

三人は善光寺で偶然落ち合い、少将は二人に気付いて名乗ろうとしたが、やはりここが三界の絆の切り所と思い直してそのまま行き過ぎる。

しかし、思い切ることが出来ずに引き返して来ると、失望しきった二人が近くの川に身を投げようとしているので、それを引き止めて名乗りを告げて互いに再会を喜ぶ。

物乞いをしたり、物狂いになったりするのは、単に命をつなぐためとか悲しみのためというばかりでなく、多くの人々に接することによって主君を探し出そうという考えによるものと解釈すべきであろう。

深草の少将=仮作の人名。
善光寺=長野市にある名刹。本尊は阿弥陀如来。
=めのと。傳育する役の男。
三界の絆=親子の愛着のこと。ことわざに「子は三界の首枷」とある。

(役別) シテ 傳小次郎、 子方 深草少将ノ子、 ワキ 僧(深草少将)
(所要時間) 三十五分