【つ】
081鶴亀(つるかめ)


中之舞の中
地『千代の例乃数々に。千代の例乃数々に。何を引かまし姫小松の。緑の亀も。舞ひ遊べば。丹頂乃鶴も。1千年乃。齢を君に。授け奉り。庭上に参向申しければ君も御感の余りにや舞楽を奏して舞ひ給ふ』
地『月宮殿の。白衣乃袂。月宮殿乃。白衣乃袂乃色々妙なる。花の袖。秋ハ時雨の紅葉乃葉袖。冬ハ冴え行く。雪乃袂を。翻す衣も薄紫の。雲乃上人の舞楽乃声々に。霓裳羽衣の曲をなせば。山河草木国土豊かに千代萬代と。舞ひ給へば。官人駕輿丁御輿を早め。君乃齢も長生殿に。君乃齢も長生殿に。還御なるこそ。めでたけれ』

(作者) 能本作者註文、自家伝抄、異本謳曲作者及び享保六年書上には、作者は勿論、曲名の所見もない。ただ明和本には本曲が収められ、二百十番謳目録に「作者未詳」とある。
(曲柄) 初番目
(季節) 正月
(稽古順) 五級
(所) 唐土
(物語・曲趣) 新春に支那の朝廷で四季の節会事始めが催され、不老門において天子は百官郷相の拝賀を受け、万民も群集して礼拝する。

拝賀が終わると、嘉例によって鶴亀を舞わしめ、その後天子も舞楽を奏せしめて自ら舞い、やがて長生殿に還御するのである。

この曲は極度に単純化され現実化された初能物であるから、それだけ詞章も平明であり曲節も平易である。

したがって、初心者の稽古に適するとされているが、そういった簡単な表現で、この曲本来の品格を保つことは決して容易ではない。作者の目的は、おそらく賑やかで華やかな祝言曲を作るという点にあったのであろう。

四季の節会=節会は、古昔、朝廷において節日またその他の公事が行われる日に催される集会をいう。この日は天子の出御があって、御前において宴を群臣に賜るのが例である。
事始め=一年中の行事のうちで、最初の行事を執り行う事をいう。
不老門=支那洛陽の十四門のひとつ。
百官=朝廷に仕える諸官省の役人。
郷相=公卿ならびに宰相等の高官。
鶴亀=古昔から長寿を保つものと信ぜられ、寿命の長久を願う際にはこれを例えに良く引用されている。
舞楽=歌舞音楽を総称した名称。

小謡
(上歌)『庭の砂ハ金銀の。庭の砂ハ金銀の。珠を連ねて敷妙乃。五百重の錦や瑠璃の樞。しゃこの。行桁めのおの階。池の汀乃鶴亀ハ。蓬莱山も外ならず。君乃恵みぞ。ありがたき君乃恵みぞありがたき』

(役別) シテ 皇帝、 ツレ 鶴、 ツレ 亀、 ワキ 大臣、 ワキツレ 従臣
(所要時間) 九分