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084 道成寺(どおじょおじ)

(作者) 観世大夫書上には観阿世阿両人の作、二百十番謳目録には観阿弥作、また自家伝抄には世阿弥作とある。
(曲柄) 四番目
(季節) 三月
(稽古順) 重習 奥伝
(所) 紀伊国日高郡矢田村大字鐘巻道成寺
(物語・曲趣) 紀州道成寺では撞鐘再興の供養を行ったが、女人禁制と触れさせたにもかかわらず、ひとりの白拍子が来た。そして、白拍子は鐘の供養に舞を舞うからと言って能力の許しを得て、舞いながら鐘に近付く。

さらに、隙を狙って中に飛び込むと、鐘は轟然と落ちてしまった。驚いた能力は住僧にそのことを報告する。

すると、住僧は「真砂の荘司の娘に恋慕された山伏が、娘を避けてこの鐘の中に隠れていると、怨みの一念から蛇体となり、鐘に巻きついて焼き溶かしてしまった」という昔話をする。

さらに、住僧は「その執心が残って鐘に障碍をなすのであろう」と、衆僧とともに祈念をすると、鐘は再び上がった。

そして、中から蛇体が現れ、なおも鐘に祟りをなそうとしたが、遂に祈り伏せられて日高川に飛び入るのである。

女の執念の恐ろしさを構成しているのが、この全曲の主題である。

道成寺=和歌山県日高郡矢田村鐘巻にあり、紀の道成の創建した寺であるといわれる。
女人禁制=一定の地域を限って、女子の入ることを禁ずること
白拍子=白拍子舞を舞う遊女を指す。白拍子舞は平安後期から鎌倉時代に流行した歌舞である。
鐘の供養=新鑄の鐘の撞き初めについての供養の法会をいう。
能力=力役に従事する身分の低い僧。
真砂の荘司=荘司は荘園の主で、土地の支配者の意を持つ語である。
日高川=龍神山より出て、道成寺の南を流れ、御堂町で海に入る川。

(役別) 前シテ 白拍子、 後シテ 蛇體、 ワキ 道成寺住僧、 ワキツレ 従僧(二人)
(所要時間) 三十五分