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086 東北(とおぼく)
我こそ梅の主よと 地『先立つあとか』 シテ『花乃蔭に』 地『休らふと見えしまヽに我こそ梅の主よと夕ぐれなゐの花乃蔭に。木隠れて見えざりき木隠れて見えずなりにけり』 |
(作者) 世阿弥元清
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節) 正月
(稽古順) 四級
(所) 京都東北院
(物語・曲趣) 京の東北院にもうでた東国の僧が、今を盛りの梅の花を眺めていると、女が来て、「この梅は和泉式部が植えて軒端の梅と名づけていつも眺めていた木であり、あの方丈は和泉式部の寝所をそのままに残したものである。花も主を慕うのか、毎年色香も弥増しに咲き匂う」と語リ、その後で「実は我こそこの梅の主よ」と告げて、夕闇の花の陰に消えた。
そこで、僧は法華経を読誦しながら、花の陰で夜を明かしていると、和泉式部が在りしままの美しい姿で現れ、いろいろ語り、舞いを舞ったりしたが、「やがてお暇申さん」と方丈に入るところで、僧の夢は覚めた。
気品のある清らかな美しさを表現する手段として、上品な上臈姿の和泉式部を主人公として、梅の花に配合させたのであろう。
すべてが旅僧の夢の中の出来事であって、構想的にいうと、この曲に限らずすべて能の旅僧は想像力の豊な詩人的素質の人間で、例えば作者が旅僧の形で登場しているようなものである。
能における僧=この曲に限らず、すべて能の旅僧は想像力の豊かな詩人的素質の人間であって、たとえば作者が旅僧の形で登場しているようなものである。
和泉式部=大江雅致の女。一条天皇時代の多情多感の歌人として有名。
方丈=維摩居士の禅室の名称より転じて、寺院の長老などの居室をいう。
舞の中 シテ『げにや色に染み。香に愛でし昔を』 地『よしなや今更に。思い出づれば我ながら懐かしく。恋しき涙を遠近人に。漏らさんも恥ずかし。暇申さん』 シテ『これまでぞ花ハ根に』 地『今ハこれまでぞ花ハ根に。鳥ハ古巣に帰るぞとて方丈乃灯火を。火宅とやなほ人ハ見ん。此処こそ花の台に和泉式部が臥所よとて。方丈の室に入ると見えし夢ハ覚めにけり見し夢ハ覚めて失せにけり』 |
■小謡 (上歌)『年月を古き軒端の梅の花。年月を古き軒端の梅の花。主を知れば久方の。天霧る雪乃なべて世に。聞えたる名残かや。和泉式部乃花ごころ』 ◎『今はこれまでぞ花は根に。鳥は古巣に帰るぞとて。方丈の燈火を。火宅とやほ人 は見ん。此処こそ花の台に和泉式部が臥所よとて。方丈の室に入ると見えし夢は覚め にけり見し夢は覚めて失せにけり』 |