【は】
096 半蔀(はじとみ)
手に取れば手ぶさに穢る ワキ『あに心なしと言はんや。就中泥を出でし蓮。一乗妙典の題目たり。この結縁に引かれ。草木国土悉皆成仏道』 シテ『手に取れば手ぶさに穢る立てながら。三世の仏に。花たてまつる』 |
(作者) 内藤河内守
(曲柄) 三番目 鬘物
(季節) 九月
(稽古順) 三級
(所) 京都洛北紫野雲林院
(物語・曲趣) 紫野雲林院の僧が、一夏の間、立花供養をしている。
その安居も終わりに近づいたある日、ひとりの女がどこからともなく現れて白い花を供えたので、花の名を尋ねる。
すると、女は「夕顔の花」と答え、女の素性を尋ねると「五条辺りのもの」と答えただけで、花の陰に消え去った。
不思議に思った僧が五条に来てみると、荒れ果てた一軒の家に夕顔の花が咲いているので、源氏物語の昔をしのんでいると、半蔀を押し上げてひとりの女が現れた。
そして、「源氏の君がこの家で夕顔上と契りを結んだ時のこと」などを語り、消えやらぬ恋慕の情を舞いながら、言葉に託して表現する。
そのうち、夜の明け方に再び半蔀のなかに入るところで、僧の夢は覚めるのである。
別曲の「夕顔」と共通の題材を扱う姉妹編であるが、前者が女主人公のあわれさを主題とするのに対し、本曲では夕顔の花の取り持つ不思議な縁を回想する楽しさが主題となっており、それぞれの存在理由は異なっている。
紫野雲林院=京都市上京区大徳寺にあった天台宗の寺院。
一夏=四月十五日から七月十五日までの夏期九十日をいう。
立花供養=仏事のために採った花の弔いのために供養を行うこと。
安居=夏安居。一夏の間、外出を禁じて専心仏道を修すること。
序之舞の中 シテ『終乃宿りハ。知らせ申しつ』 地『常にハ訪ひ』 シテ『おはしませと』 地『木綿附の鳥の音』 シテ『鐘もしきりに』 地『告げ渡る東雲。あさまにもなりぬべし。明けぬ前にと夕顔の宿り。明けぬ前にと夕顔の宿り乃。また半蔀の内に入りてそのまゝ夢とぞ。なりにける』 |