【み】
114 身延(みのぶ)

(作者) 作者不明
(曲柄) 三番目(略初能)
(季節) 九月
(稽古順) 二級
(所) 甲斐国南巨摩郡身延山久遠寺
(物語・曲趣) ある上人が甲斐の身延山で法華経を読誦していると、読誦のたびごとに来て聴聞する女がいるので、「あなたはどういう人か」と上人が女に訊ねる。

すると、女は「私はこの山の麓に庵を結んでいる者ですが、上人がここにお見えになったのは上行菩薩の御再誕であると考えられますので、その有り難い御法に会おうと思って参るのです」と答える。

これに対して上人は、ますます不審に思って「御身は亡者ではないか」と言うと、女は「実は亡者でございまして、上人の御説法の功力で苦患を逃れることは出来ましたが、なおこの上にも佛果を授けて頂きたいものです」と頼む。

そして法華経の功徳をいろいろ唱えた後で報謝の舞を舞い、日没の頃になって霊地身延山を讃嘆しながら姿を消すのである。

法華経の事を語り、その功徳をたたえるのが本曲の目的である。法華経礼讃、身延山礼讃の曲であり、見方によっては日蓮宗宣伝のために作られたものとも受け取れる。

身延山=山梨県南巨摩郡にある。日蓮宗の総本山久遠寺はその南麓にある。
上行菩薩の御再誕=じょうぎょうぼさつ。法華経に法華経弘布の四菩薩をあげており、その一つに上行菩薩がある。日蓮は、自ら上行の再誕であると宣言していることから、このようにいった。