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116 室君(むろぎき)

(作者) 作者不明
(曲柄) 四番目(略初能)
(季節) 二月
(稽古順) 二級
(所) 播磨国揖保郡室津室明神
(物語・曲趣) 天下泰平の際に、播州室の明神では土地の遊女たちを船に乗せて囃子物をしながら神前に参る神事を行うことになっていた。

今年も天下泰平の御代なので、神職はこの神事を行うように言いつける。

やがて、大勢の遊女たちが船に乗って来ると、神職はこの女たちに棹の歌を所望する。そこで、遊女たちがその歌を謡うと、神職はさらに神楽を所望されたので、乞われるままに神楽をもあげる。

すると、更け行く月光の下に、室の明神の本地である韋提希夫人が出現して舞を舞い、明け方に雲に乗って昇天するのである。

遊女で有名な室津で、遊女が明神の祭礼に奉仕し、船に棹さしながら舟歌を歌ったことは、歌謡的にも謡曲の良き題材であったと思われる。

播州室の明神=兵庫県楫保郡室津の賀茂神社をいう。この社の小五月際には室津の遊女数十人が白拍子姿で幣を捧げ、舟歌を歌って舞い奏でたといわれている。
囃子物=笛、鼓、鉦等を合奏し、それに合わせて謡い舞うものをいう。祭礼の風流などに多く行行われた。
神前に参る神事=賀茂神社の神前に参詣する祭礼の行事。
棹の歌=遊女が船に乗って漕ぎめぐる際に歌う舟歌をいう。
韋提希夫人=いだいけぶにん。印度摩訶陀国の頻婆娑羅王の后、阿闍世王の母に当たる。釈尊を尊信してその説法を聞いた。しかし、この夫人を室の明神の本地とする典拠は不明である。あるいは作者の創意か。

(役別) シテ 韋提希夫人、 ツレ 室の遊女(三人)、 ワキ 室明神神職
(所要時間) 十五分