【ゆ】
122 遊行柳(ゆぎょおやなぎ)

(作者) 観世小次郎信光
(曲柄) 三番目
(季節) 九月
(稽古順) 九番習
(所) 下野国那須郡蘆野町
(物語・曲趣) 遊行上人が上総国から陸奥へ向かい、白河の関を越えて新道を行こうとする。

そこへひとりの老翁が現れて、上人を先代の遊行上人が通ったといわれる古道へ誘った。老翁は、路傍にある柳を「あれが朽木の柳という名木である」と教える。

そこで、上人がその名木の由来を尋ねると、老翁は「昔、ここで西行法師が、道のべに清水流るる云々の歌を詠んだ木である」と語る。

その後で、老翁は上人から十念を授かり、やがて朽木の柳の辺りに消え失せた。

その夜、上人が念仏を唱えて仮寝をしていると、朽木の柳の精が白髪の老人姿で現れ「十念を授かったために草木ながら成仏が出来る」と喜ぶ。

その後で、柳にちなむ和漢の故事を語り、また報謝の舞を舞ったりしていたが、やがてその姿を消すのである。

柳の老木が持つ情趣を表現しようとしたもので、草木成仏の仏教思想を取り入れたのも能の構想としては当然であろう。

季を秋にしたのは、閑寂の気分を助けるためである。

遊行上人=相模国藤沢の清淨光寺、俗称遊行寺の住職をいう。代々諸国を遊行して民衆化度に当たった。
白河の関=福島県西白河郡古関村にあった白河の関を指す。
道のべに清水流るる=新古今集、西行の歌。末句は「立ちとまりつれ」。
十念=念仏を十返唱えること。高僧に十念を授かれば、極楽往生するという。

(役別) 前シテ 尉、 後シテ 老柳ノ精、 ワキ 遊行上人、 ワキツレ 従僧(二〜三人) 
(所要時間) 五十五分