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130 女郎花(をみなめし)
一本折らせ給へや (下歌)『優しの旅人や。花ハ主ある女郎花。由知る人の名に愛でゝ。許し申すなり一本折らせ給へや』 |
(作者) 能本作者註文、歌謡作者考、異本謳曲作者、自家伝抄はそれぞれ世阿弥作としているが、観世大夫書上及び二百十番謳目録には亀阿弥曲とある。
(曲柄) 四番目 (略二番目)
(季節) 八月
(稽古順) 三級
(所) 山城国綴喜郡八幡
(物語・曲趣) 九州松浦潟の僧が、上洛の途中、石清水八幡に参ろうとして男山の麓に来る。
頃は秋で、女郎花が美しく咲き乱れているので、その一本を手折ろうとすると、ひとりの老翁が現れてそれを止める。
その後で、ふたりは花を折ることの可否について互いに古歌を引いて論じ合う。
その後、老翁は社前に案内し、さらに麓にある男塚・女塚にも連れて行き、「これは小野頼風夫婦の墓であり、実は私がその頼風である」と言って消え失せる。
僧が回向をしていると、頼風夫婦の亡霊が現れて「夫の心を疑って死んだ妻の魂魄が女郎花となり、頼風も妻の後を追って自殺したので、男塚・女塚が築かれた」とその次第を語る。
さらに、邪淫の悪鬼に責められている今の苦患を示して、僧の回向を乞うのである。
女が男を怨んで自殺し男も女の後を追って自殺し、ふたりの死骸は葬られて男塚女塚というのが出来た。その塚からふたりの亡魂が現れて、旅僧に回向を乞うという筋であるが、女郎花という花の名と字とのためにロマンティックな連想を起こさせている。
松浦潟=佐賀県松浦郡唐津湾のあたり。
女塚に対して (地)『共に土中に籠めしより女塚に対してまた男山と申すなりその塚ハこれ主ハ我幻ながら来りたり。跡弔ひて賜び給へ跡とむらひて賜び給へ』 |
■小謡 (上歌)『艶めきたてる女郎花。艶めきたてる女郎花。後ろめたくや思ふらん。女郎と書ける花の名に誰偕老を契りけん。かの邯鄲の假枕。夢は五十のあはれ世乃例も真なるべしや例も真なるべしや』 ■小謡 (上歌)『鳩の嶺越来て見れば。三千世界も外ならず千里も同じ月の夜乃。朱の玉垣御戸帳の。錦かけまくも。忝しと伏し拝む』 |