(2003)平成15年・下期 7月〜12月
平成15年(2003年)12月27日
第226回定例会・謡納め会
○ 本年最後の定例会は謡納めの会であり、忘年会を兼ねるものでもある。欠席者はふたりのご婦人だけで、14名と久しぶりの盛況となった。
○ 演目は「実盛」「鉢木」「玉鬘」「通小町」「猩々」の5曲。九番習の大曲「鉢木」のシテ役(佐野源左衛門常世)という大役を仰せつかることとなった。
○ 本日のお気に入り場面と節回しは次の場面である。・・・貧困の中でも大事にしておいた秘蔵の鉢の木を客人接待のためには惜しげもなく火に焚いて暖をとらせもてなす・・・。
鉢木 『(地)捨人の為の鉢の木切るとてもよしや惜しからじと。雪うち払ひて見れば面白や如何にせん。まづ冬木より咲き初むる。窓の梅の北面は。雪封じて寒きにも。異木よりまづ先だてば梅を切りや初むべき。見じといふ。人こそ憂けれ山里の。折りかけ垣の梅をだに。情けなしと惜しみしに。今更薪になすべしとかねて思ひきや。桜を見れば春毎に。花少し遅ければ。この木や侘ぶると心を尽くし育てしに。今は我のみ侘びて住む。家桜切りくべて緋桜になすぞ悲しき。 (シテ)さて松はさしもげに。 (地)枝をため葉をすかしてかかりあれと植え置きし。そのかひ今は嵐吹く。松はもとより煙にて。薪となるも理や切りくべて今ぞ御垣守。衛士の焚く火はおためなりよく寄りてあたり給へや。』 |
平成15年(2003年)12月11日
観世会荒磯能・観能会
○ 平成15年の最後となる観世会荒磯能の観能会。みぞれ風の冷たい雨が降りしきる中、渋谷・観世能楽堂まで足を伸ばす。
仕舞 | 敦盛 | 角幸 二郎 | |
錦木 | 坂井 音隆 | ||
能 | 楊貴妃 | シテ(楊貴妃) ワキ(放士) |
小早川 修 殿田 謙吉 |
狂言 | 茶壷 | 善竹 十郎 | |
仕舞 | 通小町 | 浅見 真高 | |
能 | 小鍛冶 | シテ(童子、稲荷明神) ワキ(三條宗近) |
北浪 貴裕 村瀬 純 |
○ 満員となった館内がシ〜ンと静まり返り、異様な雰囲気が漂うなかで「楊貴妃」の見せ場が近づく。楊貴妃は人知れず帝と誓った言葉を思い出し、昔を懐かしみながら舞いを舞う。甲高い笛(内潟慶三)の音が響き、大鼓(高野彰)・小鼓(鵜沢洋太郎)の掛け声が張り詰めた場内に響き渡る・・・。ウットリとさせるシーンであった。
楊貴妃 『その初秋の七日の夜。二星に誓ひし言の葉にも。天に在らば願はくは。比翼の鳥とならん。地に在らば願はくは連理の枝とならんと誓ひし事を。ひそかに伝へよや。私語なれども今漏れ初むる涙かな』(下歌) |
平成15年(2003年)11月22日
第225回定例会
○ 10月定例会が休会となったため、2か月ぶりの顔合わせ例会。
○ 演目は「葛城」「三井寺」「土車」「山姥」「船弁慶」の5曲で、全5曲への出演となった。葛城のワキ、三井寺の子方、土車の子方、山姥のツレ、そして船弁慶のワキ。
○ 本日のお気に入り場面と節回しの部分・・・。
葛城 『肩上の笠には。肩上の笠には。無影の月を傾け。擔頭の柴には不香の花を手折りつつ。帰る姿や山人の。笠も薪も埋もれて。雪こそくだれ谷の庵に着きにけり柴の庵に着きにけり』(上歌) 三井寺 『月は山。風ぞ時雨に鳰の海。風ぞ時雨に鳰の海。波も粟津の森見えて。海越しの幽かに向ふ影なれど月は真澄の鏡山。山田矢橋の渡舟の夜は通う人なくとも。月の誘はば自づから。舟もこがれて出づらん舟人もこがれ出づらん』(上歌) |
平成15年(2003年)10月9日
観能会(観世会荒磯能)
○ 隔月で行なわれる定例の演能会。
○ 演目は、仕舞「清経」「花月」「飛雲」、狂言「粟田口」、能「龍田」「歌占」。
圧巻は、後見役に宗家観世清和を従えて「歌占」のシテ(渡会何某)を勤め上げた浅見重好の熱演であった。
平成15年(2003年)9月27日
第223回定例会
○ 最近の常連メンバーとなった男性6人による謡い会。
○ 演目は、「井筒」「菊慈童」「砧」「卒都婆小町」「玉鬘」の5曲。予定していた「鍾馗」は省略することとなった。
出番は、重習いとしての大曲である「卒都婆小町」のシテ(小野小町)と砧のツレ(夕霧)。「井筒」「菊慈童」の地頭。
○ 本日のお気に入り場面と節回しの部分・・・。
菊慈童 『夢もなし。いつ楽しみを松が根の。いつ楽しみを松が根の。嵐の床に仮寝して。枕の夢は夜もすがら身を知る袖は乾されず。頼みにし。かひこそなけれ独寝の枕詞ぞ。怨みなる枕詞ぞ怨みなる』(上歌) 砧 『八月九月。げに正に長き夜。千声万声の憂きを人に知らせばや。月の色風の気色。影に置く霜までも心凄き折節に。砧の音夜嵐悲しみの声虫の音交わりて落つる露涙。ほろほろはらはらはらと。いづれ砧の音やらん』(下歌) 卒都婆小町 『頭には。霜蓬を戴き。嬋娟たりし両鬢も。膚に悴けて墨乱れ宛転たりし隻蛾も遠山の色を失ふ。百歳に一歳足らぬ九十九髪。思ひは有明の影恥ずかしき我が身かな』(上歌) |
平成15年(2003年)8月23日
第222回定例会
○ 先月に引き続いて、男性6人だけの「代役オンパレード」のお稽古と相成った。
○ 演目は、「雨月」「芭蕉」「小督」「安達原」「玄象」「融」の6曲。
出番は、「融」のシテ(尉、融大臣)、「芭蕉」のワキ(里女、芭蕉の精)、「安達原」のワキ(山伏祐慶)、「雨月」のツレ(姥)、「玄象」のツレ(師長)、そして「小督」の地頭役と全6曲オール出演。
○ 本日のお気に入り場面と節回しの部分・・・。
雨月 『折しも秋なかば。折しも秋なかば。三五夜中の新月の。二千里の外までも。心知らるる秋の空。雨は叉瀟湘の。夜のあはれぞ思はるる。』(上歌) 芭蕉 『げに目の前に面白やな。春過ぎ夏たけ秋来る風の訪れは。庭の荻原まづそよぎそよかかる秋と知らすなり。身は古寺の軒の草。忍ぶとすれど古も。花は嵐の音にのみ。芭蕉葉の。もろくも落つる露の身は。置き所なき虫の音の。蓬がもとの心の秋とてもなどか変わらん』(クセ) 融 『うら淋しくも荒れ果つる後の世までもしほじみて。老の波も返るやらん。あら昔恋しや。恋しや恋しやと。慕へども嘆けども。かひも渚の浦千鳥音をのみ。鳴くばかりなり音をのみ。鳴くばかりなり』(下歌) |
平成15年(2003年)7月26日
第221回定例会
○ 2か月ぶりの顔合わせとなったにしては出席者の少ない定例会となった。
6人のご婦人全員を含む計9人が欠席され、男性6人だけの「代役オンパレード」のお稽古となったのはやむを得ないところ。
○ 予定していた「咸陽宮」を省略することとし、他の演目「通盛」「邯鄲」「天鼓」「斑女」「山姥」についてはぶっつけ本番の代役を当てながらの進行であった。
○ 自分への割り当ては、「通盛」のシテ(漁翁、平通盛)、「邯鄲」のワキツレ(大臣)と子方(舞童)の2役、「山姥」のシテ(女、山姥)のほか、「天鼓」「斑女」の地謡役と出っ放しの4時間余。
○ いずれも情趣あふれる名曲に属するもの。次に掲記する場面は惚れ惚れとする節回し&表現力で、心憎いばかりである。
通盛 『沈むべき身の心にや涙のかねて浮かむらん 西はと問へば月の入る。西はと問へば月の入る。其方も見えず大方の。春の夜や霞むらん涙も共に曇るらん。乳母泣く泣く取りつきて。この時の物思ひ君一人に限らず思し召し止り給へと御衣の袖に取りつくを。振り切り海に入るを見て老人も同じ満潮の。底の水屑となりにけり 底の水屑になりにけり』(下歌 地) 邯鄲 『四季折々は目の前にて。春夏秋冬萬木千草も。一日に花咲けり。面白や。不思議やな。かくて時過ぎ頃去れば。かくて時過ぎ頃去れば。五十年の栄華も尽きて。夢の中なれば。皆消え消えと失せ果てて。ありつる邯鄲の枕の上に。眠りの夢は。覚めにけり』(地 狂言セリフ前) 天鼓 『人間の水は南。星は北に拱くの。天の海面雲の波立ち添ふや。呂水の堤の月囀き水に戯れ波を穿ち。袖を返すや。夜遊の舞楽も時去りて。五更の一点鐘も鳴り。鶏は八声のほのぼのと。夜も明け白む。時の鼓。数は六つの巷の声に。また打ち寄りて現か夢幻とこそ。なりにけれ』(地 サイゴ) 山姥 『隔つる雲の身を変へ。仮に自性を変化して。一念化生の鬼女となって。目前に来れども。邪正一如の見る時は。色即是空その侭に。仏法あれば。世法あり煩悩あれば菩提あり。仏あれば衆生あり衆生あれば山姥もあり。柳は緑。花は紅に色々。』(地 仕舞部分) |